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風船のガスはなぜ抜ける?

2016.09.21 Wednesday

風船を膨らませると気体の種類にかかわらず例外なく時間とともにしぼんでいきます。
ただしぼむ速度は気体の種類に依存し、ヘリウムだと速く、空気だとそれよりもずっと遅くなります。
経験上、ヘリウムで膨らませた風船は空気で膨らませた風船の5倍の速度で抜けてしまいます。

なぜ密閉されているはずの風船表面から気体が抜けて、それも気体によって速度がこんなにも違うのでしょうか。
ガスが抜けるメカニズムには大きく次の3つの要素が関係しています。

(1) 分子運動による膜内へのガス分子の単純拡散
(2) ガス分子の極性による膜分子との相互作用
(3) ボース=アインシュタイン凝縮

風船のフィルムは目には見えない小さな隙間が無数にあります。風船の素材であるポリエチレンやナイロン等は糸状の高分子からできていて、いわば不織布のような構造をしています。
その隙間はガスの分子サイズよりは小さいですが、絶対零度でない限りはガスも高分子も動いているので時々隙間をガス分子が通り抜けてしまうことがあります。暑いほど速く抜けるのはこのためで、これはタイヤにも言えることです。

さて、分子の隙間から抜けるということは分子が大きいほど抜けにくいということになるはずです。
以下は様々な気体分子のサイズです。

分子サイズ
(出典: 配管技術 2012年8月号 日本工業出版)

ボンベのような高圧条件では衝突直径が重要になりますが、フィルム風船が耐えられる程度の圧力(1atm前後)では動的分子径が分子の直径と考えて差し支えありません。
この表を見ると確かに水素やヘリウムが酸素や窒素よりも小さいことがわかります。ただ、思ったより変わらないという印象も受けますね。

ではサイズの似通った酸素、窒素、二酸化炭素はどれも同じような速度で抜けるのでしょうか?



少し文字が小さくて見にくいですが、どのプラスチックでもなぜか透過速度に大きな差があることがわかるでしょう。これだけの差は分子ふるい効果や分子量による運動速度の違いだけでは説明できません。

この違いは(2)のガス分子と膜の相互作用が関係しています。
特筆すべきは二酸化炭素と水蒸気の並外れた透過性で、一部例外はあるもののこの2つは酸素や窒素よりも速く抜けていきます。
風船を口で膨らます人はなんとなくこのことに気づいているかもしれませんね。

二酸化炭素や水蒸気は分子が極性を持っていて、酸素原子がマイナスに、炭素原子や水素原子はプラスに分極しています。
高分子もまた分極があり、例えばポリエチレンは炭素原子がマイナスに、水素原子がプラスになっています。このため極性のある分子はそれが無い分子と比較して速く膜の中に入り込んでしまうのです。

ところで表をよく見るとプラスチックによって特徴が異なることがわかります。例えば塩化ビニルや塩化ビニリデンは原子半径の大きい塩素原子を含むためそれが分子運動を妨げるため優れたガスバリア性を持ちます。だから空ビはフィルム風船と比較してなかなか抜けないわけです。
また、分子内にOH基をたくさん持つセロファンは水をよく通します。乾燥状態では分子間水素結合により優れたガスバリア性を示しますが、水に弱いのが残念ですね。

さて、この表に水素やヘリウムは載ってませんが、これらは二酸化炭素や水蒸気と比較しても並外れた速度で抜けていきます。
水素やヘリウムは酸素よりも少し小さいですが極性はありません。極性が無いということは抜けにくい方の寄与もあるわけでサイズによる抜けやすさがある程度相殺されてもいいはずですよね。

実は水素やヘリウムの場合はまた別のメカニズムが働いていて、それは(3)のボース=アインシュタイン凝縮です。
陽子、中性子、電子は同じ場所に同時に存在することができません。このような性質の粒子をフェルミ粒子といいます。
自然界のヘリウムのほとんどを占めるヘリウム4は2個ずつの陽子、中性子、電子からできていて、このように偶数個のフェルミ粒子から構成される粒子をボース粒子といいます。

ボース粒子にはおもしろい性質があり、フェルミ粒子と違って同じ場所に同時に存在することができるのです。
ただし条件があり、それはエネルギーが最小の状態になった時です。絶対零度近くの液体ヘリウムなら壁を登って流れ出たり分子1個分の隙間からドバドバ漏れ出すという不思議な現象を肉眼で観察することができます。

しかし常温のヘリウムでも統計的には個々の原子のエネルギー状態はプランク分布に従うので、中にはボース粒子としての本領を発揮するヘリウム原子も出てきます。
水素の場合は原子状であれば陽子と電子が1個ずつなのでフェルミ粒子として振る舞いますが、水素は常に分子として存在しますのでその状態ではボース粒子として振る舞うことができます。(クーパー対)

これが重水素であれば原子状でもボース粒子として振る舞うため、それが重水素で常温核融合が可能であるという論拠になっています。

ちなみに炭素原子や酸素原子も一応ボース粒子になりますが、構成する粒子の数が多すぎてヘリウムのようにボース=アインシュタイン凝縮を起こすことができません。

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