2021.09.30 Thursday
近日中にさっちゃんフィルムバルーンのクラファンが始まるので当分はその関連記事を連投しようと考えてましたが、生物学科出身者として解説しなければならないネタが出てきたため急遽その記事を書くことにします。
目次
1. 虐待回路の発見
2. 一見合理的なようだが…
3. ウイルスによって仕組まれたか
4. まとめ
・・・
1. 虐待回路の発見
ハーバード大学の研究者がマウスの脳には虐待に特化した回路があることを発見しました。
子どもを虐待するときだけ活性化する「脳の虐待回路」が見つかる - ナゾロジー
リンク先の記事を要約すると、虐待の時だけ活性化する神経回路が見つかり、それを人為的に活性化したところ虐待が開始し、抑制したところ停止したのです。
そしてその回路は大人同士の争いや天敵からの防衛には反応せず、子供の虐待に特化した回路だったのです。
2. 一見合理的なようだが…
虐待行動は繁殖機会を増やしたり食糧不足の時の生き残りに寄与してるのではないかと言われてます。
メスを寝取って前に交尾したオスとの子を殺すという行動は人間も含め広範囲の動物に見られます。
しかしこれをもってじゃあ虐待は生物学的には正しいんだという論理に飛躍するのは危険なことです。
その個体に着目すれば生存や繁殖の機会を増やせますが、集団や種というスケールで見るとみだりに子供を殺すことは遺伝的多様性を減少させ、病気に対する抵抗性を弱くします。
つまり免疫が揃ってしまってそれを突破されたら全滅するという結果を招きます。
まして食糧不足で弱ってる時に免疫が揃ってしまったらどうなるかは火を見るより明らかです。
虐待が合理的だと言ってしまうのは木を見て森を見ないことに他ならないのです。
3. ウイルスによって仕組まれたか
もうお気づきだと思いますが虐待によって得をする存在がいます。
それは言うまでもなく病原体です。
ということは病原体が自身の増殖に有利なように、宿主であるマウス(の祖先)の脳を改変してしまったと考えるのはどうでしょうか。
これはとても突飛な考えに思えます。
しかも脳が改変されるだけでなく生殖細胞まで改変されなければそれが子孫に伝わることはありません。
そんなことが可能な病原体、それはウイルスです。
ウイルスは自身の遺伝子を宿主の染色体DNAに組み込むことができます。
脳に感染するウイルスが生殖細胞まで改変するというのはなかなか起こりそうにないようなことに思えますが、地球に生息する動物の膨大な個体数と地質学的な時間スケールではウイルスの遺伝子が染色体に組み込まれることは頻繁に起きています。
実際にヒトゲノムの半分近くは長い年月の間に蓄積したウイルス由来の配列でできてます。
ウイルスの生物学的存在意義は何か
染色体上にあるウイルス由来遺伝子のほとんどは活性を失ってますが、一部は生き残っていて時々出てきては悪さをすることがあります。
虐待回路を仕組んだ張本人は遠い昔に絶滅したか、あるいは地球上のどこかに潜んで静かに暴れだすチャンスを伺ってるのかもしれません。
しかしその置き土産たる虐待回路は未だにネズミなどの動物に残っているのです。
合理的でないものが自然淘汰されずに残ってる理由としては劣性遺伝、マウスは繁殖力が強いため虐待回路が残っていても種としては存続できること、人為的な家畜化の過程で虐待回路が選択されてしまった、などが考えられます。
4. まとめ
虐待は宿主(ネズミや人間)にとっては全く合理的ではありませんがウイルスにとっては合理的です。
そのためウイルスが仕組んだのではないかという仮設には説得力があるでしょう。
しかし数千万~数億年前の話なのでウイルスが仕組んだことを直接立証するのは困難です。
今後原因遺伝子が同定され、様々な動物でそのホモロジーが解析されれば小動物であった共通祖先から垂直遺伝によって引き継がれたのか、それともウイルスによって水平方向に拡散したのかがはっきりするでしょう。
そうなると張本人のウイルスが跋扈していた時代もわかるはずです。
なお、よくある間違いはこれを人間に当てはめて虐待を正当化することです。
「倫理的に問題があるが生物学的には正しい」という言い回しをするのも正当化するのと何ら変わりません。どっちかが間違いだと言ってるのと同じだからです。
人間は世代時間が長く妊娠出産のコストはマウスより遥かに大きいので、仮に百歩譲ってマウスでは合理的だったとしても人間には当てはまりません。
虐待に限らず多くの不合理行動がウイルスに起因してるのではないかという説を過去記事で述べてますので併せてご参照ください。
人間の持つ有害遺伝子はウイルス由来か
目次
1. 虐待回路の発見
2. 一見合理的なようだが…
3. ウイルスによって仕組まれたか
4. まとめ
・・・
1. 虐待回路の発見
ハーバード大学の研究者がマウスの脳には虐待に特化した回路があることを発見しました。
子どもを虐待するときだけ活性化する「脳の虐待回路」が見つかる - ナゾロジー
リンク先の記事を要約すると、虐待の時だけ活性化する神経回路が見つかり、それを人為的に活性化したところ虐待が開始し、抑制したところ停止したのです。
そしてその回路は大人同士の争いや天敵からの防衛には反応せず、子供の虐待に特化した回路だったのです。
2. 一見合理的なようだが…
虐待行動は繁殖機会を増やしたり食糧不足の時の生き残りに寄与してるのではないかと言われてます。
メスを寝取って前に交尾したオスとの子を殺すという行動は人間も含め広範囲の動物に見られます。
しかしこれをもってじゃあ虐待は生物学的には正しいんだという論理に飛躍するのは危険なことです。
その個体に着目すれば生存や繁殖の機会を増やせますが、集団や種というスケールで見るとみだりに子供を殺すことは遺伝的多様性を減少させ、病気に対する抵抗性を弱くします。
つまり免疫が揃ってしまってそれを突破されたら全滅するという結果を招きます。
まして食糧不足で弱ってる時に免疫が揃ってしまったらどうなるかは火を見るより明らかです。
虐待が合理的だと言ってしまうのは木を見て森を見ないことに他ならないのです。
3. ウイルスによって仕組まれたか
もうお気づきだと思いますが虐待によって得をする存在がいます。
それは言うまでもなく病原体です。
ということは病原体が自身の増殖に有利なように、宿主であるマウス(の祖先)の脳を改変してしまったと考えるのはどうでしょうか。
これはとても突飛な考えに思えます。
しかも脳が改変されるだけでなく生殖細胞まで改変されなければそれが子孫に伝わることはありません。
そんなことが可能な病原体、それはウイルスです。
ウイルスは自身の遺伝子を宿主の染色体DNAに組み込むことができます。
脳に感染するウイルスが生殖細胞まで改変するというのはなかなか起こりそうにないようなことに思えますが、地球に生息する動物の膨大な個体数と地質学的な時間スケールではウイルスの遺伝子が染色体に組み込まれることは頻繁に起きています。
実際にヒトゲノムの半分近くは長い年月の間に蓄積したウイルス由来の配列でできてます。
ウイルスの生物学的存在意義は何か
染色体上にあるウイルス由来遺伝子のほとんどは活性を失ってますが、一部は生き残っていて時々出てきては悪さをすることがあります。
虐待回路を仕組んだ張本人は遠い昔に絶滅したか、あるいは地球上のどこかに潜んで静かに暴れだすチャンスを伺ってるのかもしれません。
しかしその置き土産たる虐待回路は未だにネズミなどの動物に残っているのです。
合理的でないものが自然淘汰されずに残ってる理由としては劣性遺伝、マウスは繁殖力が強いため虐待回路が残っていても種としては存続できること、人為的な家畜化の過程で虐待回路が選択されてしまった、などが考えられます。
4. まとめ
虐待は宿主(ネズミや人間)にとっては全く合理的ではありませんがウイルスにとっては合理的です。
そのためウイルスが仕組んだのではないかという仮設には説得力があるでしょう。
しかし数千万~数億年前の話なのでウイルスが仕組んだことを直接立証するのは困難です。
今後原因遺伝子が同定され、様々な動物でそのホモロジーが解析されれば小動物であった共通祖先から垂直遺伝によって引き継がれたのか、それともウイルスによって水平方向に拡散したのかがはっきりするでしょう。
そうなると張本人のウイルスが跋扈していた時代もわかるはずです。
なお、よくある間違いはこれを人間に当てはめて虐待を正当化することです。
「倫理的に問題があるが生物学的には正しい」という言い回しをするのも正当化するのと何ら変わりません。どっちかが間違いだと言ってるのと同じだからです。
人間は世代時間が長く妊娠出産のコストはマウスより遥かに大きいので、仮に百歩譲ってマウスでは合理的だったとしても人間には当てはまりません。
虐待に限らず多くの不合理行動がウイルスに起因してるのではないかという説を過去記事で述べてますので併せてご参照ください。
人間の持つ有害遺伝子はウイルス由来か
- by: ふーちゃん
- 生命科学
- 21:36
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